i-CASTワールド2013 ―― 今 知っておきたい義歯の臨床 ――
Reporter:長谷川正洋/森山徹 (義歯課)
2013年4月21日 東京都千代田区ベルサール神田にて標題のセミナーが開催され、弊社より数名の技工士が聴講しております。下記にレポートを掲載致します。
■第1部:下顎総義歯の辺縁をどのように設定するか
村岡歯科医院院長 村岡 秀明 先生
下顎総義歯の辺縁をどのように設定するか、「おやまの法則」という考え方を学んだ。
(お)折り返し地点 (や)柔らかい所で終わる (ま)丸みを帯びる
この法則を使うには印象が綺麗である事が前提で、村岡先生はパーシャルの場合も、フルデンチャーと同じ様に印象を取るとの事。上映された先生の手法によると、トレーに少しずつコンパウンドを足していき、特に舌側の外形を作るのに時間をかけ、トレーの外形を作製されていた。完成した模型は見事な出来栄えで、とても作業しやすく見えた。下顎総義歯の舌側の辺縁は咬合平面と平行であり、顎舌骨筋線を覆うのが理想と聞き、今まで携わった物がこのように出来ていただろうかと考えさせられた。
■第2部:落第点をとらない総義歯治療 最低限おさえるべき咬合採得のポイント
ナカエ歯科クリニック院長 前畑 香 先生
前畑先生の話は医師向けの話が多いなと感じたが、その中で、入れ歯安定剤の売上が年間約2000万個あるという事実が非常に印象深かった。製作側としては改めて考えなければならないと事だと思う。
その他にも、顎位のズレを防ぐため、テクニカルエラーが少なくなるような咬合採得を(垂直的な顎間関係・水平的な顎間関係の決定)行う事が必要であるとし、そのためには解剖学的な要素を含んだ印象採得を行い、義歯床辺縁に影響を及ぼす口腔粘膜や筋を考慮したものを作製しなければならないという話をされた。
その後、臨床映像も流され、先生自身が義歯を外す場面で、鉗子や手で引っ張ってもなかなか取れない程に義歯が強く吸着していた事は強く印象に残った。しっかりした物だとこんなに吸着するのかと驚いた。普段はなかなか義歯セットの映像を見る機会がないので、この様な映像は大変参考になった。
■第3部:パーシャルデンチャーの「設計と考え方の限界」
千駄木あおば歯科院長 谷田部 優 先生
パーシャルデンチャーの設計によっては、歯肉の炎症や歯の動揺などトラブルが起こってしまうため、トラブルが起こらないような設計をしなければならない。そのためには義歯の動きを予測して把持力、支持力、維持力が発揮されるような設計が良い。実際、対合関係によりレストなしのクラスプを作る事があるが、義歯は沈下してクラスプで歯肉を傷つけたりしないものか不安に思う時がある。
■第4部:ノンメタルクラスプデンチャーの「構造と設計を考える」
南青山歯科クリニック副院長 林 大悟 先生
ノンクラスプデンチャーは審美面のみが着目され特性がきちんと理解されないまま利用された結果、噛めない、痛い、壊れるといったトラブルが発生し、満足度の低い義歯になるという事でした。このトラブルは、材料の剛性が大きな問題の一つということで、「剛性」というキーワードをあげられていた。理工学的な話で表やグラフを多く使用されており、印象に残ったのは、樹脂レストはあまり意味をなさないということ。バルプラストやルシトーンなどのポリアミド(ナイロン)系では、義歯床下粘膜の負担圧がレストなしよりも少しかかっているグラフ結果があった。
講演の他にもポスター発表も興味深いものがあった。長野県のワイドデンタル、福岡県のDENTIC、この二つのラボはメタルフレームとエステショットブライトを併用した物を積極的に進めているらしい。ワイドデンタルには同じ鋳造機を使用しているので、できれば一度テクニック的なことを見させて頂きたいと思った。
この講習会に参加し、今後の技工において参考になる箇所が非常に多かった。セミナーの内容を一つ一つ思い出し、今後の仕事に活かせればと思う。